2018/02/13 「面白すぎる天才」
 図書館で借りた「面白すぎる天才科学者たち(2016年)」を読みました。作者は内田麻理香(サイエンスライター)。
  300ページくらいの文庫本で多数の科学者評が載っているのでひとつずつの話はかなりの短編。面白いエピソードを紹介しながら作者から見たそれぞれの天才たち。歴史物なので、どの程度、正確なのかよく分からないが、気軽に読める本のひとつ。
 私は、歴史は勝者が作る嘘の話や作り話が多いと信じている。政治の世界では多くの歴史が勝者によって捏造され、時代とともに何度も歴史が見直されている。科学史の場合も勝者に偏った話が多いが、比較的、「実はそうではなかった」という真実が明らかになることが多く、たまたまそのことを知らなかったり、科学者の人間的側面を知らなかったりすることがあるので、こういった本からの情報もありがたい。
    歴史学者であれば、本格的な調査、様々な資料の発掘、原論文の精査などを通じて詳細な研究を進める人もいるが、この本はそこまで詳細に調べたというものではなく、比較的よく知られている史実を紹介し、天才の人間性や人生に焦点をあてたもののようである。ただし帯にある「こんな偉人伝、読んだことない!」というほどの意外性は感じなかった。
 
天才の名前
作者による副題
感想
アイザック・ニュートン 女嫌いでケンカ好きの「政治屋」科学者 中島秀人先生の「ロバート・フック ニュートンに消された男」を読んだ後ではかなり物足りなさを感じる。暴君ニュートンを著した本は比較的多いので、意外性もないが、ニュートンを聖人だと信じている人にはインパクトはあるかも。
チャールズ・ダーウィン

親のすねがじりの「家康的」野心家

 
エヴァリスト・ガロア 絶望に縁取られた「間男」な天才美少年  
アンリ・ファーブル 元祖「昆虫くん」で超一級サイエンスライター  
アルフレッド・ノーベル 生涯独身、でも女に彩られたノーベル賞設立者  
南方熊楠 日本のレオナルド・ダ・ヴィンチ、奇人ぶりも超人的  
アルベルト・アインシュタイン 実は女グセが悪い暴言家 アインシュタインのこういう側面や家族の話はあまり知らなかった。
ニールス・ボーア 心ここにあらず、でも物理学界でも家庭でも良きパパ  
エルヴィン・シュレーディンガー 科学界の光源氏  
ハンフリー・デービー 異例の大出世、でも嫉妬に狂ってしまった美形化学者  
マイケル・ファラデー 大科学者なのに清廉潔白、実は・・・? 誰もが尊敬するファラデー
ヴォルフガング・パウリ 機械を壊す名人で「物理学界の良心」  
ヴェルナー・ハイゼンベルク 希代の大嘘つきか、単なる不器用なイケメンか  
アントワーヌ・ラヴォアジエ 近代化学の父、片腕は「雌ドラゴン」  
ニールス・アーベル 少女漫画のヒーロー的な数学者  
ロバート・オッペンハイマー 栄光と苦悩を一身に受けた「原爆の父」  
リチャード・ファインマン 「永遠」の少年の魔術師  
 
 これは、400ページ位の文庫本で、ローレンス・クラウスが書いたリチャード・フィリップス・ファインマンを紹介する本。「ファインマンさんの流儀(文庫本は2015年、日本語単行本は2012年)」
 数式はないものの、かなり正確に書かれているため、流し読みするには難解な本だと思う。図書館で借りて読むには時間がかかりすぎるので、古本を買ってきて、毎日少しずつ付せんをつけながら読んではいるものの、なかななか、読みきれずに手こずっている。
  天才ファインマンの自伝はとても有名で、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」をはじめ多くの人気本が出されているが、本書は自伝ではなく、物理学者であるクラウスがファインマンを紹介する伝記である。
  クラウスは、「宇宙が始まる前には何があったのか?(宇宙は無から始まった)」という難解な問題を分かりやすく書いた本があって、かなり分厚いにも関わらずとてもとても面白く読めたという経験がある。この本も面白いだろうと思って読み始めたのだが、なかなか先に進めない。
   作者ができるだけ正確に記述しようとしているためなのか、文庫本なのに参考書が欲しくなるくらい難しい。しかし、物理学(というか世界の)最大の原理である「最小作用の原理」をファインマンがどのように理解しようとしたのか、といったくだりは、 とてもためになる。ファインマンの本も面白いが、クラウスの書き方もなるほどな、と思わせるところが多い。
 理論物理学の世界は長々と数式を並べて理論を進めるの常識的な手法である。しかし数学の天才でもある ファインマンはほとんど数式を用いない「ファインマンダイヤグラム」という画期的な手法を発明し、素粒子や量子の反応を表す標準的な記法を編み出した。天才たちが頭の中で考えている世界は凡人には到底理解ができない。そこで多くの学者は数学という言語を使ってそれを説明しようとするが、ファインマンの流儀は少し異なるようである。 
 
 左の図は、内田女史の本のイラスト付きの帯、図書館の本には帯がなかったが、「この人たち、スゴすぎて、ダメすぎる!」とある。
  右の図はクラウスの本の単行本の表紙である。とてもあっさりとした文庫本に比べるとかなり目立つ装丁である。「すべてを自分で創り出した天才の物理学人生」という副題が見える。