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10回  シャルルの法則(2)生活実感としての理想気体の法則
2017/10/19
 
修正 11/20

ボイルの法則とシャルルの法則
 室温、大気圧付近の空気は、理想気体に近い挙動を示すため、空気の体積と圧力、温度の関係を実際の生活の中で体感することができる。
 身近な例として自動車のタイヤと風船を考える。いずれも中に空気(気体)が閉じ込められている。空気の充填を止めて、バルブや栓を閉じると、中の空気が外の空気と出入りできない状態になり、「閉じた系(closed system、熱は出入りできるが物質は出入りできない系)」となる。見ることはできないが、中には空気(の分子)が詰まっているはずである。
   空気を充填したとき、タイヤはあまり変形しないが、風船は大きく形が変わるところが異なる。タイヤの中の空気は、容積一定の条件となり、風船の中の空気は圧力一定の条件となり、観察されるタイヤや風船の挙動(中の空気の挙動)は、ボイルの法則、シャルルの法則で説明できる
    容積が変化しないタイヤでは、中の空気の温度が上がると圧力(空気圧)が上昇する。たとえば、自動車用タイヤが、気温20℃で走行前の空気圧が200kPa(ゲージ圧)であったとすると、時速100kmでしばらく走行した後では、内部の空気の温度がおよそ50℃になり、空気圧は220230kPa(ゲージ圧)となる。この時、温度は、293Kから323Kに上昇し、それに比例して中の圧力が上昇する(絶対圧として約300kPaから330kPaに上昇)ということが、シャルルの法則によって説明される。
 走行後は、空気の温度(タイヤの温度)が変化するため、測定される圧力が大きく異なり、この例では、
10%以上も異なる値(ゲージ圧力)を示している。内部の空気の量は変わらないが、温度の上昇によって圧力は大きく変わる。通常の使用では、タイヤ内部の空気の温度を計って、充填圧力を一定条件に換算するということはしないので、自動車メーカーでは、タイヤの指定空気圧(空気圧の安全上適正な値)をほぼ同じ条件で測定した場合、すなわち冷間時の値としている。気圧や気温による違いはあるものの、ほぼ条件が揃う走行前に空気圧の点検を行って、その値が安全上適性であるかということを確認するということである。日常の生活の中でも、閉じ込められた気体は、温度によって容易にその圧力が変わるということに注意を払う必要がある。

   なお、製造直後のタイヤは、使用開始時に構造材がこなれることによって骨格が大きくなるため、内部の容積が大きくなる。タイヤは、風船のように何度も大きくなったり小さくなったりはしないが、新品タイヤだけは、膨張するため、漏洩が全くないとしても、空気圧は10%ほども低下する。新品タイヤを使用する場合初期の慣らし運転と点検が必要とされているが、その理由には、機械的な慣らし、運転者の感覚の慣れ、初期の漏れの確認の他にこのような「タイヤの成長」による膨張と圧力低下が必ず起こるためである。温度上昇による空気圧の圧力上昇は、シャルルの法則から、変形・膨張による圧力低下はボイルの法則から理解される。
   一方、大きく変形する風船では、タイヤの場合とは異なり、空気を充てんしていくと、圧力はほぼ等しいまま容積が増えて膨らむ。
  風船の中の空気の温度が上がると、風船は、中の空気の圧力と風船のゴムの張力が、外の気圧(大気圧)と釣り合うように膨らむ。理科の実験では、風船の中の空気の温度だけを上げる実験は簡単ではないが、氷水で風船を冷やして中の空気の温度を下げると風船が縮むので、シャルルの法則を観察することができる。