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16回 理想気体の科学(1)ドルトンの法則
2017/10/31
 
修正 11/6

ジョン・ドルトンとアメデオ・アヴォガドロ
(John Dalton、Conte Lorenzo Romano Amedeo Carlo Avogadro di Quaregna e Cerreto)
(1)ドルトンの法則と原子説
 ボイルが示したように、気体の研究は「元素」や「分子」の概念と結びつけて行われてきた。
 ジョン・ドルトン(
17661844年、イングランド)は、水素、酸素、二酸化炭素などの気体を用いた実験から、「分圧」という概念を導入して、混合気体の圧力が各成分の分圧の和に等しいとする「ドルトンの法則(Dalton's Law)」を見出した(1801年)。
  原光雄著「化学を築いた人々」では、ボイル、プリーストリー、ラヴォアジエに続いて
4人目の化学者としてドルトンが紹介されている。
   ドルトンの法則は、日本の高校の化学の教科書にも出てくる有名な法則で、「定温定圧の条件で、複数種類の理想気体を混合して混合気体をつくるとき、@混合気体の占める体積は混合前に各気体が占めていた体積の和に等しくA混合気体の圧力(全圧)は、各気体の分圧の和に等しい」とする「理想気体の混合気体」の法則である。
   ドルトンの法則は、「分圧の法則」として知られているが、この法則の主張の中には、「分体積の法則」と「分圧の法則」という二つの法則が含まれており、前半@は、「アマガーの分体積の法則」、後半Aが「ドルトンの分圧の法則」である。二つの法則は等価と考えられているため、合わせてドルトンの法則と説明されることが多いが、分体積と分圧は、それぞれ異なる概念である。
    液体と液体を混合すると混合液体の容積は、元の液体の容積を合計したものにならないが、気体の場合は、ほぼ合計した容積になると考えられ、これをアマガーの法則(Amagat's law)と呼ぶ。
    たとえば、10cm3の水と10cm3のエタノールを室温で混ぜると19.3cm3の混合溶液となり20 cm3にはならないが、理想気体を仮定すると、10cm3の酸素と10cm3の窒素を混ぜると20cm3の混合気体になり、分体積の合計が混合気体の体積に等しくなる。液体を混合した場合の容積は、1+1は2にならないが、気体の場合は、1+1=2になると考えるのが、理想気体の混合気体の概念である。
 この考えに、ボイルの法則を適用すると、混合気体の圧力(全圧)は、元の気体の圧力(分圧)の合計に等しいことが分かる。したがって、アマガーの法則とドルトンの法則は等価とみることができ、「分体積の法則」=「分圧の法則」=「ドルトンの法則」と考えることもできる。
  容積VAVB の気体ABを混合し、混合気体の容積がV、混合気体の圧力がPになったとすると、理想気体と理想混合気体の間では次の関係が成り立つ。
 
アマガーの法則
ボイルの法則
ボイルの法則
  これから
 
ドルトンの法則
  が導かれる。
   ここで、分圧 PAPB  は、混合気体の容積V になるように各成分を個別に膨張させたときに各気体が示す圧力であり、分体積 VAVB は、混合後の圧力 P になるように各成分の圧力を調節したときの各気体が示す体積である。
 2行目と3行目の式は、混合する前の気体を、予め出来上がりの体積に膨張させたとしてボイルの法則を適用し、分圧を求めたものである。混ざってしまうと元の圧力との関係が分からないため、予め別々に膨張させて圧力を求めるという手法であるため、実際の混合ガスの圧力とは異なる。
   理想気体を混合した理想混合気体は、一般の混合液体のように交じり合うことがなく、異なる気体の間にも同じように相互作用がないと考えると、アマガーの法則とボイルの法則から、ドルトンの法則が導かれる。ただし、アマガーの法則はドルトンの法則よりもかなり後になって、実在気体の研究の中で出された(1880年)ものであるから、分体積の概念の方が後から作られており、元はドルトンの法則と分圧の概念である。
 いずれにしても、分圧と分体積は、実際に存在するものではなく、仮想の体積、仮想の圧力であることに注意が必要である。しばしば、分圧というものが実際に存在するかのような議論がなされることがあるが、これは、あくまでもそういう概念の圧力を考えるということであって、実際の混合ガスの中に分圧というものが存在する訳ではない。

   ドルトンは、気体は小さな粒子のようなものからできており、それらが占める体積や圧力は、それぞれの量によって分配されるものと考えてドルトンの法則を導いた。ボイルの法則からシャルルの法則まで、目に見えない空気や気体には、何となく気体分子のようなものが含まれていると考えられてきたが、ドルトンは、よりはっきりと「微小な粒子」を考え、次のような「原子分子仮説」を提唱した。
 
@全ての物質は、それ以上分割できない原子からなる
A第一原子は、単体の究極的粒子である(現在の原子に相当)
B第二原子は、複合原子であり、第一原子が結合してできている(現在の分子に相当)
C同じ種類の原子は、全て同じ大きさ、形状、重さを持っている(原子量の概念)
D同じ種類の分子は、全て同じ大きさ、形状、重さを持っている(分子量の概念)
   古代ギリシア時代から続いた物質の探求は、元素という概念によって発達してきたが、ドルトンの原子説によって、「全ての物質が小さな粒からなる」という概念が、本格的に導入されることになった。
 近代になって分子、原子、素粒子など、小さな粒子に物質の根源を求める本格的な科学が発達するが、理論や研究ツールが整えられ、これらの微小粒子が実際に発見されるようになるのは、まだ先、19世紀後半から20世紀にかけてである。
  19世紀初頭、ドルトンは、原子よりも小さな粒子までは、想定していなかっため、ドルトンの原子分子仮説は、現代の科学とは相容れない部分も多い。また、その後、発見される同位体の存在によって原子量や分子量の概念も変わってしまい、ドルトンの原子分子仮説では説明できないことも多い。しかし、ドルトンが提唱した基本的な概念は、当時の科学に重要な進歩を与え、元素(物質)が、原子(第一原子)と分子(第二原子)という「小さな粒」からできているという考えは、現代の科学にもつながっている。
   なお、ドルトンは、実在する気体は理想気体とは異なる振る舞いをするだろうと考え、原子説の中では、全ての流体(気体)が液化されるであろうと予言している。
  当時は、まだ気体の液化(通常の温度、圧力で気体の状態にあるものを液体にすること)は実現されていなかったが、ドルトンの法則から
60年後の1861年、ドルトンが家庭教師として教えたジュールが、実在気体の液化に大きな進歩をもたらすジュール=トムソン効果を発見する(「ジュールとウィリアム・トムソン」の項参照)。