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17回 理想気体の科学(2)アヴォガドロの法則
2017/10/31
 
修正

ジョン・ドルトンとアメデオ・アヴォガドロ
(John Dalton、Conte Lorenzo Romano Amedeo Carlo Avogadro di Quaregna e Cerreto)
ドルトンの原子分子説の矛盾
 ドルトンの法則に続いて、ゲイ=リュサックが、気体反応の法則(ゲイ=リュサックの第一法則)を提唱し(1808年)、「反応で生成される、あるいは失われる各気体の体積の間には簡単な整数比が成り立つ」ことを示した。
 ドルトンの原子分子説は、多くの実験結果を説明することができたが、ゲイ=リュサックが示した気体の反応の法則とは矛盾する結果を示した。ドルトンの原子分子説では、「一種類の元素からなる気体は、原子によって構成される」と考えられ、水素や酸素は一種類の元素からなるため、分子ではなく単原子で存在すると考えられていたためである。
  ドルトンの原子説で気体の反応、水素と酸素から水(第2原子)を合成する反応を考えると、(水素1分子)+(酸素1分子)→(水1分子)となるが、実際の実験結果は、(水素2分子)+(酸素1分子)→(水2分子)となった。現在の分子式の書式に従うと、ドルトンの原子説と実際の実験結果は次のようになり、この反応を正しく説明することができなかった。
 
 H(水素)+O(酸素)→HO(水) 1:1:1  ドルトンの原子説
2H2(水素)+O2(酸素)→H2O(水) 2:1:1  実際の実験結果
(2)アヴォガドロの法則(1811年)
    アメデオ・アヴォガドロ(1776〜1856年、イタリア・サルデーニャ王国)が「アヴォガドロの分子説」を提唱し、「同じ温度、圧力の下、全ての気体は同じ体積中に同数の分子を含む」というアヴォガドロの法則(1811年)を見出した。アヴォガドロは、ゲイ=リュサックの気体反応の法則を定式化し、ドルトンの原子説の矛盾を解決することに成功した。
 アヴォガドロの説は、
 
@同じ量の気体は、同じ体積を占める
A気体は原子ではなく、同種の原子が2つ結合した分子からなる
   というものである。アボガドロの法則(Avogadro's law)とは、「同じ圧力、同じ温度、同じ体積のすべての種類の気体には同じ数の分子が含まれる」という法則である。 ただしドルトンやアヴォガドロが考えた「分子」というものは、この時は仮想の粒子であり、20世紀初頭まで発見されない。
   現在では、よく知られているように、水素分子や酸素分子は、単原子ではなく、複数の同じ原子からなっており、2:1:1となる前述の反応は、アヴォガドロの分子説によって説明することができた。
    一方、アヴォガドロの法則以降、気体の原子は、単独では存在しないということが化学の常識となったため、19世紀末に、空気の中からアルゴンが発見された時は、化合物を作らないアルゴン原子の存在(すなわち単原子分子)は化学の常識外れであり、発見者のひとりウィリアム・ラムゼーは、アルゴン化合物の合成、発見に苦労することになる。(アルゴンの発見、起源、工業的な製造方法については、別項で詳細に述べる。)
    ボイルの法則(1662年)、シャルルの法則(1787年)、ドルトンの法則(1801年)、アヴォガドロの法則(1811年)と続き、19世紀初頭に理想気体の科学が確立した。理想気体の研究から、原子や分子に関する概念が生まれ、物質の科学が大きく発展することになった。
 理想気体(
ideal gas)とは、熱力学的には「圧力が温度と体積の逆数に比例し、内部エネルギーが温度に比例する気体」であり、統計力学的には「気体分子の体積と分子間の相互作用を無視できる系」であり実在しない。しかし、理想気体の研究によって、科学は大きく発展し、理想気体は、非常に重要なガスの科学の基本となった。
   理想気体は架空のモデルであり、ほとんどの実験事実は、理想気体が存在しないことを示している。理想気体の概念から考え出された「気体分子」には大きさがなく、気体分子と気体分子の間には力が働かない、したがって、このような分子は液体にはならない。「実在気体(real gas)」と呼ばれる実際の気体では、気体の分子には「大きさ」があり、分子間には相互作用があるため、液化することができる。「理想気体と実在気体の違いはわずかである」と説明する教科書もあるが、実際にガスを取り扱う現場の常識とは異なる。全ての気体が液化される。