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第20回 カラム(3)組成、濃度、分率、密度、純度
 2017/11/13
 
12/26 修正

 ガスの組成(composition)や「純ガス中」の不純物の濃度(concentration)、混合ガス中の成分の濃度を表わす値は、特にことわりがなければ、容積比(volume fraction)である。容積比は、理想気体のモル比(mole fraction)に等しいため、ガスの量の換算に都合がよいためである。高圧ガスを理想気体とみなすことはできないが、この場合は、換算のためだけに理想気体としている。
 ここで、比較的よく用いられ、混同されたり誤解されたりしやすい用語「濃度」に関連すること用語を整理しておきたい。 
@組成(composition)
   組成とは、化合物や混合物などを構成している元素や純物質の割合を表す言葉である。空気であれば、窒素、酸素、アルゴンとその他の微量成分(分子)が空気の組成であり、その混合割合でもある。
A濃度(concentration)
   「濃度」とは、「溶液中の溶質の割合」を示す学術用語であり、SIでは、質量濃度[kg/m3]、物質量濃度[mol/m3]、体積濃度[-]などが定義されている。
B分率(fraction)
    気体の場合は「体積濃度」という用語は使えないため、「体積分率」が用いられる。液体と気体の混合物の一般的な性質が異なるため、体積濃度と体積分率は、定義が異なる。
B濃度と分率
   溶液の体積濃度は、溶質の体積を混合後の液体の体積で割ったものであり、気体の体積分率は、混合ガスの体積が、混合前の全ての成分の体積の合計に等しいと考えて、これを分母にして各成分の体積をとしたものである。
  混合溶液の「体積濃度」と混合気体の「体積分率」は混合に対する考え方が異なっており、厳密には、混合気体に「濃度」という用語を用いるのは正しくない。
  液体は、溶け合うため混合液体の容積は「1プラス1は2にはならない」、一方、気体の場合は、溶け合うことがなく、混合気体の容積は「1プラス1は2になる」と考えたためである。実際には理想気体は存在しないので、このような理想混合気体も存在しないが、常温・常圧の気体が理想気体に近い挙動を示すことから、混合液体と混合気体の組成の表現の仕方を変えている。
 混合液体の場合は「濃度」(concentration)と呼び一般的には重量比で表し、混合気体の場合は、「分率( fraction)」とよび、一般的には体積比(volume fraction)で定義している。
Cガスの組成にも用いられる「濃度」
   混合物の組成を表す言葉を厳密に言えば、「混合液体の濃度」、「混合気体の分率」となるが、分率という言葉は学術用語としてはよく知られるものの、一般的には広まっていない。
  そこで、慣用的には「混合気体の体積分率」あるいは「混合気体のモル分率」を「ガスの濃度」と呼ぶことが多い。
  「混合気体中の体積分率」と呼ばずに「ガス中の濃度」と呼ぶことが非常に多いのである。たとえば、空気中の酸素の割合を「酸素分率」ではなく「酸素濃度」と呼ぶことが多い。水の中に溶け込んでいる酸素の量も「溶存酸素濃度」というように用いる。気体であっても液体であっても、その組成を表す言葉として「濃度」という言葉が非常に広く用いられている。
  「濃度」という言葉は、「濃い」「薄い」という尺度を表す言葉であるが、混合物の中の組成を表す言葉として広く使われているため、実際には「重量比」「容積比」「モル比」など、異なる定義があり、実際の使用には十分に注意をする必要がある。
D密度
   密度とは、単位体積あたりの質量、あるいは物質の量である。標高(高度)が増すと空気の圧力が低下し、空気の密度が低下する。単位体積当たりに含まれる「空気分子の数」が減るので、これを「空気が希薄になる」「空気が薄くなる」とも表現する。
  空気(大気の最下層の対流圏)の密度が変化してもそこに含まれる酸素の濃度は変化しないため、空気が薄くなると酸素も薄くなる。高地では、酸素濃度は低地と同じであるにも関わらず、高山病を発症しやすくなるのは、空気の密度の低下によって、体に取り入れることのできる酸素の量が減るためである。
E純度(purity
    物質を取り扱う時、実際に100%というものはありえない。それはアヴォガドロ定数という数が非常に大きな数字であり、普通の量の物質の中に異分子がひとつもないということを証明することは不可能であるからである。そこで、純ガスを取り扱う時に、しばしば「純度」という用語が用いられる。これは、主要成分の「濃度」(concentration)が、どのくらい高いかということを示す尺度であり、不純物が非常に少ない場合を「高純度」、「純度が高い」といい、不純物が多い場合を「低純度」、製品中の不純物が増えることを「純度が低下した」などという。
  産業用のガスでは、一般的に「高純度」と呼ぶのは(ガス種や使用目的にもよるが)、主成分の濃度が、99.9999・・%と、パーセント表示の9が6つや7つ以上のものを指すため、主成分の濃度を示すことにはあまり意味がなく、特定の成分の不純物の量(impurity)を示すことで「純度」を表すことが一般的である。
E ppm  不純物の量を表すのによく用いられる単位
   ppm(parts per million、百万分率は、パーセントppc(parts per cent、百分率)と同様、比率を表す無次元の単位で、純ガスを取り扱う時に微量成分の濃度表示に最もよく使用される濃度の単位のひとつである。
 「%」は、「パーツ・パー・セント」と呼ばれることはめったになく、ほとんどの場合「パーセント」(
percent)と呼ばれるが、「ppm」も「パーツ・パー・ミリオン」と呼ばれることはほとんどなく、通常は、「ピー・ピー・エム」と呼ばれる。
  図は、100×100×100個のボールを含む立方体である。3面が見えているので、3万個のボールが表面に見えているが、この中には100万個のボール入っている。
純ガス中の
1ppmの不純物とは、この100万個のボールの中にたったひとつだけ異なるボールがあるということである。そろばんのような10進法のデジタルであれば6個目のそろばんの玉をひとつを動かせば100万分の1ということになるが、実際にガス分子を並べてみると大変である。
  図には、たまたま異なる分子ひとつが表面に見えているように描いてあるが、1個の分子は、この箱のどこか奥の方にあるのかも知れず、しかも実際のガス分子は激しく動き回っているので、これをとらえて分子を一個ずつ数えて
100万個にひとつの違いを見つけることはできない。
   通常の容器の中のガス分子をひとつずつ数えることは不可能であるから、「不純物濃度1ppm」を求めるために、個数を数える以外の様々な計測方法(分析方法)が発明され、分析装置が開発されている。しかし、実際の測定は、分析装置があれば誰でも簡単にできるというものではなく、測定の仕組みを理解し、正しい手順でサンプリングし測定を行うための熟練が必要である。
 
1ppmは数字にすると簡単であり、産業ガスの業界では、日常的に用いられる単位である。しかし100万分の1は、図にすると非常に微量であることが分かる。
  さらに微量な不純物成分であれば、
ppb(parts per billion)ppt(parts per trillion)といった小さな単位が使われることもある。ppbであれば、図の立方体1000個の中からボール1個を探し出すということである。
F parts-per表記の単位と課題
   %、ppm、ppbなどは「parts-per表記法」の一例であるが、国際的には様々な議論がある。国際度量衡局(BIPM)parts-perの使用を認めてはいるが、言語に依存する大きな問題があるため、正式なSIには含まれていない。
   西洋の命数法(numeral、数詞を用いた数の表わし方)には、long scaleとshort scaleがあり、言語によって採用されるものが異なり非常に複雑である。たとえば、ppbbは英語圏ではbillionのことであるが、short scaleでは109を表わし、long scaleでは1012を表わす。short scaleはbillion、trillion、quadrillionと3桁毎に呼び方を変えているのに対して、long scaleは、million、billion、trillionの間にthousand million、thousand billionを挟むため、6桁毎に呼び方が変る。
 昔の英語圏では、米国が
short scale、英国がlong scaleであったが、戦後間もなく国際度量衡総会はlong scaleの方を推奨、フランスなど多くの国がlong scaleに移行した。その時、米国はshort scaleのまま留まり、英国が逆にshort scaleに移行したため大きく混乱した。現在は、英語圏の多くの国とロシアなどの東欧がshort scaleを採用、ドイツ、フランス、イタリアなど一部の国がlong scaleである。
   日本語の小数(分、厘など)と大数(万、億など)は、中国に由来する東洋の命数法であり、西洋の命数法とは直接関係はないが、ppbpptを導入しているので、西洋式の命数法にも注意が必要である。現在、日本でよく使われているppb、pptは、short scaleのものである。われわれが使っている%ppmまでは、ほぼ万国共通であるが、ppbpptは万国共通というものではなくshort scaleの国でしか通用しないということである。
 このような
parts-per表記は、国によって数字の読み方が異なるため、混乱を招きやすい。国際度量衡局はppb,pptを使用しないように提唱しており、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)も言語に依存する用語の使用に反対している。SIISOでは、パーセントについては使用を認めているが、他の表記は正式には認めていない。
 
parts-per表記を廃止すべきとの意見もあるが、工学分野では多用されており、parts-per表記に代わる方法も提案されていない。産業ガスの業界としては、ppmppbの使用を禁止されると、非常に面倒なことになる。また、パーセントについては、工学だけでなくあらゆる分野に普及しているので、廃止は極めて難しいと思われる。
 なお、パーセントや
ppmは、比率を表わすparts-per表記法であり、差を表わす数字ではないことに注意が必要である。たとえば、消費税の税率が本体価格の「3%」から「5%」になった時、元の税率は1.67倍、すなわち67%も上がっている。これを「税率が2%上がった」と表現するのは大間違いであるが、この誤用は時折みかける。変化量を差で示す場合は、パーセントの差で表記することはできないので「2(パーセント)ポイントの上昇」としなければならない。たとえば、不純物の濃度が、10ppmから15ppmになった時は、不純物は、1.5倍、50%増えているので、5ppm増えたと書くことはできない。口語的には「5ppmの違い」と言ってしまいそうであるが、正しくは、ppm5ポイントの違いということになる。
Gppmよりもはるかに微量の計数
  ppmは100万分の1、ppbは10億分の1、pptは1兆分の1であるが、放射性物質の量は、放射線の量から求めることができるため、さらに桁外れに微量の値が測定できる。放射性物質の量(放射能)は、その崩壊係数(半減期あるいは寿命など)から比放射能(質量あたりのベクレル)が得られるので、放射線の測定値(ベクレル)を与えると、放射性物質の濃度(重量分率)が求められる。たとえばセシウム134であれば1ベクレルあたりの重量は2×10-14gとなるため、水1リットル中にセシウム134が100ベクレル含まれるとした場合の化学種としての濃度は2pptのさらに100万分の1となる。逆にみると1リットルの水に1兆ベクレルのセシウム134が含まれていた場合に、やっと2ppmという化学分析できるということである。放射線の計測は桁外れに高感度である。微量であっても環境への影響があるとされる放射性物質の処理の難しさが分かる。(→半減期・寿命・比放射能)