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新・漫画ガスの話 72 作成日2020/11/04 更新日2022/04/10 コメント2023/07/25 Fガスの科学/原子・分子の話 気体分子によるブラウン運動 水分子によるブラウン運動から分子の存在が証明されましたが、気体分子でもブラウン運動がおこります。 このページを描いている時に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的パンデミックが起り、人々は対応に追われています。 たまたまブラウン運動の話を描いている最中にあったのが、「マスクでウィルスを防げない」という嘘の流布騒ぎです。ウィルス感染症に対してマスクの効果が全くないというデマが流れました。その根拠はウィルスのサイズがマスクの繊維の隙間よりもはるかに小さいという「ふるい」の考えによるものです。 結論から言えばウィルスを同伴する飛沫は100%除去できることもなく、全く除去できないこともなく、その中間のものであるということ、「フィルトレーション」とはそういうもの、「ふるい」とは異なるものです。そしてその中で空気分子によるブラウン運動が重要な役割を示していることを見落としてはいけないと思います。 ウィルスのサイズは非常に小さく、それに対してマスクの繊維の隙間は非常に大きいため全く捕捉できない、効果がない、というのは全く非科学的、非常識な理解と言えます。 フィルターがごみを除去するのは、粉末をふるいにかけるのとは全く仕組みが異なります。マスクのようにガスのフィルトレーションを行うものは、フィルターの繊維の表面にゴミや花粉、ウィルスなどの固体や液体を吸着することによって、これらを除去します。ふるいは、金属などのマス目の大きさを粉体が通過するかどうかで選別するもの、液体や気体ではなく固体を大きさをふるい分けるものです。 もともとマスクの繊維の隙間はウィルスだけでなく細菌や小さな埃よりもかなり大きいものです。そうでなければ十分な空気が流れずに呼吸することができません。十分な空気が流れなければマスクの役割を果たすことができません。これは工業用の集塵機でも同じことで、ゴミよりも小さな網目であれば、ガスが通る圧力損失が莫大となり実用に耐えられません。繊維の隙間が非常に小さくゴミの方が大きければ、直ぐに目詰まりしてしまいます。 |
ウィルスは小さいのでマスクを素通りすると勘違いしている人は、フィルターの仕組みそのものを全く理解していません。 このような意見が蔓延した時、日本エアロゾル学会は、ウィルスや花粉とマスクの効果に対する、一般人の勘違いを正す目的で、マスクとウィルスの関係に関する見解書を提出しています。 その内容を要約すると、マスクによる除去効果は4種類の機構に基づいており、非常に小さな粒子の場合はブラウン運動の効果が大きくなる、したがって小さなウィルスが全く除去されないと考えるのは大きな間違いであるということです。ウィルス単体、飛沫への付着(エアロゾル)、空気による飛沫同伴(エントレインメント)、色々な条件でフィルターの効果を検証する必要があります。 パンデミックや災害など、世の中全体が大きな困難に対する時、様々なデマが飛び交いますが、このような、どう考えても科学的におかしいということがまことしやかに流布されてしまいます。きちんとした考察が必要です。 マスクが全く役立たないという意見、横に座った人への感染よりも正面に座った人の方が感染しやすいという意見(富岳を用いたシミュレーションでは横に座った人への感染が最も起こりやすいという結果)、など科学的実証がとても重要です。 紫外線による殺菌効果はウィルスにも有効という知見がありますが、紫外線の場合、UV-Cではあればかなり効果がありますが、様々な誤解も生じました。波長の短い光は回折しにくいため陰の部分には全く効果がないことなどが見落とされたり、人体に照射して火傷を負った事故がありました。また不織布は紙ではなくプラスチックの合成繊維なので紫外線で急激に劣化しやすく、スマホのように液晶やカメラを備えた機器に紫外線は大敵ですが、これに紫外線を照射して「消毒」する機器などが出回りました。紫外線の効果とデメリットや危険性が定量的に明らかにされていません。 なお、ガスを選択的に吸着したり膜透過することを「分子ふるい」と呼ぶことがありますが、これは比喩的なもので、実際は篩(物理的に大きさで分ける篩)ではありません。気体分子大きさだけでなく熱運動や電場、拡散など様々な要因が重なって分離ができるのですが、「篩」という言葉から、大きさだけで分けているように誤解されることが多いのです。「篩・ふるい」という比喩は分かり易く、誤解を受けやすい言葉ですが様々なところで使われています。蒸留の仕組みを説明する時に「沸点」を持ち出す間違いと同じくらい、「篩」という言葉による間違いが多いように思います。 |